理論・視点

社会的手抜きSocial Loafing

一言で言うと

人は、一人で作業するときより、集団で一緒に作業するときのほうが努力を減らす傾向がある。この現象を社会的手抜きと呼ぶ。一人ひとりの貢献が見分けられず評価されないときや、課題に意味を感じないときに起こりやすく、条件によってはなくなる。

説明したい問い人はなぜ、集団で作業すると一人のときほど頑張らなくなるのか。どのような条件なら、そうならないのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

「人手が多ければ仕事は軽くなる」ということわざがある。Latané, Williams & Harkins (1979) は、このことわざには二つの意味があると述べた。一つは、人が集まれば一人ひとりはそれほど頑張らなくても目的を達成できる、という希望のある意味である。もう一つは、人手が多いと、人は本来よりも頑張らなくなる、という意味である。

手がかりになったのは、Ringelmann が行った綱引きの研究である。Latané らの紹介によれば、一人で引いたときの力は平均63kgだったが、3人では160kg、8人では248kgにとどまった。一人ひとりの力の合計に対して、2人組は93%、3人組は85%、8人組は49%の力しか出していなかった。集団の作業で一人あたりの成果が下がるのは、息を合わせることの難しさのためなのか。それとも、一人ひとりが努力そのものを減らしているからなのか。

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主張とメカニズム

Latané et al. (1979) は、大学生の男性に、できるだけ大きな声で叫ぶ、あるいはできるだけ強く拍手をするよう求め、一人で行う場合と、2人、4人、6人で行う場合を比べた。一人あたりの音の大きさは人数が増えるほど小さくなり、6人組では一人の能力の合計の40%にとどまった。次の実験では、目隠しとヘッドホンで互いが見えず聞こえない状態にし、実際には一人で叫んでいるのに他の人と一緒に叫んでいると信じさせる条件を設けた。息の合わなさが起こりえないこの条件でも、叫ぶ強さは、1人と一緒だと思ったときに一人のときの82%、5人と一緒だと思ったときに74%に下がった。著者らは、叫ぶ課題については、損失の半分は協調の失敗により、残りの半分は努力の低下によると結論した。著者らは、この努力の低下を社会的手抜きと呼んだ。

著者らは原因として三つの説明を示した。第一は、他の人が怠けている、あるいは能力が低いと考え、そのような人のために頑張る理由はないと努力を減らす、という説明で、著者らはこれを帰属と衡平の問題として論じた。第二は、「できるだけ多く」ではなく「十分な程度」を目標に置き直し、他の人がいればそれを楽に達成できると考える、という説明である。第三は、集団では一人ひとりの成果が見分けられないので、手を抜いても「群衆に隠れる」ことができ、逆に頑張っても正当な分け前が得られない、という説明である。著者らは、個人の貢献が見分けられ、報酬がそれに応じて与えられれば、ただ乗りはできなくなるはずだと述べた。

Karau & Williams (1993) は、社会的手抜きを「集団で作業するとき、一人で作業するときよりも努力を減らす傾向」と定義し、78件の研究をメタ分析した。社会的手抜きは課題や対象者を問わず頑健に見られ、効果の大きさは小さいから中程度だった。著者らはこれを説明するために集団エフォート・モデルを提案した。このモデルは、努力は、それが望ましい結果を得るのに役立つと期待される程度に応じて注がれる、という期待理論の考え方を集団の作業に広げたものである。人は、自分の努力が価値ある結果の獲得に役立つと期待する程度にしか、集団の課題に努力を注がない。集団の作業では、自分の努力が自分の成果に、自分の成果が集団の成果に、集団の成果が集団としての結果に、集団としての結果が自分にとっての結果に結びついていなければならない。このつながりのどこかが切れていると感じると、努力は減る。ここでいう価値ある結果には、給与のような客観的なものだけでなく、楽しさ、集団への所属感、自己評価も含まれる。

メタ分析からは、手抜きを弱めたり、なくしたりする条件が見えてきた。集団で作業するときも一人のときと同じように一人ひとりの成果が評価されうるとき、課題に意味があるとき、自分の貢献が他の人と重ならないとき、集団としての成果が評価される機会があるとき、親しい友人やチームメイトと一緒に作業するときには、手抜きはほとんど見られなかった。また、手抜きは女性より男性で、東洋より西洋の文化で大きかった。さらに、意味のある課題で、仲間の出来が悪いと予想されるときには、一人のときより努力を増やす傾向も見られた(4件の比較に基づく)。

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身近な例

5人でゼミのグループ発表を準備しているとしよう。スライドは最後に一つのファイルにまとめて提出し、誰がどこを作ったかは先生には分からない。打ち合わせでうなずいているだけのメンバーもいて、結局2人がほとんどの作業を引き受けた。

次の発表では、担当する章をはっきり分け、各スライドに担当者の名前を入れて、自分の部分は自分で発表することにした。テーマも、全員が関心のある地元の商店街の話にした。一人ひとりの貢献が見分けられ、課題に意味を感じられるようにすると、手を抜きにくくなる。

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主要概念

社会的手抜き(social loafing)
集団で作業するとき、一人で作業するときよりも努力を減らす傾向。
リンゲルマン効果(Ringelmann effect)
綱引きのような作業で、集団の人数が増えるほど、一人あたりの出す力が小さくなる現象。協調の失敗と努力の低下の両方を含む。
集団エフォート・モデル(Collective Effort Model)
人は、自分の努力が価値ある結果の獲得に役立つと期待する程度に応じて、集団の課題に努力を注ぐ、とするモデル。期待理論を集団の作業に広げたもの。
評価可能性(evaluation potential)
一人ひとりの成果が評価されうる程度。一人で作業するときだけ成果が評価され、集団で作業するときには評価されない場合に、社会的手抜きが起こりやすい。
社会的補償(social compensation)
意味のある課題で仲間の出来が悪いと予想されるとき、一人で作業するとき以上に努力すること。
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代表的な展開研究

  • Karau, S. J., & Williams, K. D. (1993). Social loafing: A meta-analytic review and theoretical integration. Journal of Personality and Social Psychology. DOI ↗78件の研究をメタ分析し、社会的手抜きが課題や対象者を問わず見られることを示した。期待理論を集団の作業に広げた集団エフォート・モデルを提案し、評価可能性、課題の意味、仲間の出来への予想、文化などが手抜きを左右することを整理した。
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批判と境界条件

Karau & Williams (1993) 自身が、研究の偏りを指摘している。分析した163の効果量のうち140は実験室の研究、141は大学生を対象にした研究で、多くは見知らぬ者同士が単純な課題に取り組むものだった。著者らは、産業、委員会、陪審などの実験室の外で実証することが急務だと述べた。実際、親しい友人やチームメイトの集団では手抜きは見られず、現場研究では効果が実験室の約半分だった。ただし著者らは、現場研究でも、女性や東洋の文化でも、手抜きは依然として有意に見られたと述べている。学生以外の成人を対象にした6件の比較では手抜きは見られなかったが、対象がまちまちで解釈は難しいとされた。

一方で、研究の多くが手抜きをなくす条件を探すことに偏っていたため、手抜きの大きさは過小評価されている可能性もある、と著者らは述べた。また、自分の努力を自己報告させると手抜きはほとんど見られず、人は自分の手抜きに気づいていないか、報告したがらないと考えられる。なお、Latané et al. (1979) の課題は、参加者が頼まれて叫んだり拍手したりするもので、著者らはこれを自然に起こる歓声や拍手とは区別している。

研究上の位置づけ

原典Latané, B., Williams, K., & Harkins, S. (1979)
Many hands make light the work: The causes and consequences of social loafing
分類Concept / theory
研究分野組織行動論
地図の区画組織行動
分析単位個人 · チーム
理論系譜心理学 · 行動論
REFERENCES

出典

  • 原典Latané, B., Williams, K., & Harkins, S. (1979). Many hands make light the work: The causes and consequences of social loafing. Journal of Personality and Social Psychology. DOI ↗

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