リーン生産方式Lean Production
一言で言うと自動車産業の国際比較から、大量生産よりも少ない人手・空間・在庫・開発期間で、品質と多様性を両立する生産と企業運営のやり方を「リーン(ぜい肉のない)生産」と名づけ、それが大量生産に代わる普遍的な方式として世界に広がるとする視点。
中核的な問い
20世紀の工業は、フォードに代表される大量生産を手本にしてきた。標準品を大きなロットでつくり、在庫と予備の人員で変動に備えるやり方である。しかし日本の自動車メーカーは、別のやり方で高い生産性と品質を実現していた。その違いは何で、ほかの国や産業にも移せるものなのか。
主張とメカニズム
「リーン生産がリーン(ぜい肉がない)なのは、大量生産と比べて、あらゆるものをより少なく使うからである」。Womack, Jones, & Roos (1990) は、この生産方式をこう説明した。同書は、マサチューセッツ工科大学(MIT)の国際自動車研究プログラム(IMVP)で行われた、世界の自動車工場と企業の比較研究をまとめた本である。著者たちによれば、リーン生産では、工場の人手、生産スペース、設備投資、新製品の開発にかかる工数と期間などが、いずれも大幅に少なくて済むというのである。そして、リーン生産は、職人による手づくり生産の柔軟さと大量生産の低コストという両方の長所を組み合わせ、前者の高いコストと後者の硬直性を避けるものだと位置づけた。
ここで区別すべきなのは、トヨタ生産方式とリーン生産という二つの言葉である。トヨタ生産方式は、大野耐一らがトヨタ自動車で戦後に築き上げた、具体的な生産の仕組みを指す。ジャスト・イン・タイム(必要なものを必要なときに必要な量だけつくる)や、異常があればラインを止めて原因を正す、といった考え方が柱である。これに対してリーン生産は、IMVP の研究者たちが、トヨタを主な手本としつつ、特定の一社や日本という国に結びつかない一般的な方式として名づけた概念である。本書は、工場の現場だけでなく、製品開発、部品供給会社との関係、販売と顧客への対応、企業全体の管理までを含む体系としてリーン生産を描いた。
本書の中心的な主張は、リーン生産が日本の文化に固有のものではなく、他の国の企業も学んで取り入れることができ、やがて大量生産に代わって世界の標準になるというものである。そのしくみとして、在庫を減らして問題を表に出すこと、多能工のチームに品質の責任と改善の役割を持たせること、部品供給会社と長期的に協力することなどを挙げた。
身近な例
たとえば、ある工場が、部品を大量に作り置きして倉庫に積んでいるとしよう。不良品が出ても、在庫の山に埋もれて気づくのは何週間も後になる。リーン生産の考え方では、前の工程は後の工程が使った分だけをつくり、在庫をぎりぎりまで減らす。すると不良が出たときにすぐにラインが止まり、その場で作業者と班長が原因を調べて直すことになる。在庫という「ぜい肉」を落とすことで、隠れていた問題が見えるようになり、改善が進むというのがこの見方である。
主要概念
- リーン生産(lean production)
- 大量生産と比べて、人手、空間、設備投資、開発期間などあらゆる資源をより少なく使いながら、品質と製品の多様性を実現する生産と企業運営の方式。
- 大量生産(mass production)
- 標準化された製品を専用の設備と分業で大量につくり、在庫や予備の人員で変動を吸収する生産方式。
- トヨタ生産方式(Toyota Production System)
- トヨタ自動車で形成された、ジャスト・イン・タイムと異常時にラインを止める考え方を柱とする具体的な生産の仕組み。
- ジャスト・イン・タイム(just-in-time)
- 必要なものを、必要なときに、必要な量だけつくって運ぶことで、在庫を最小にする考え方。
代表的な展開研究
- Shah, R., & Ward, P. T. (2003). Lean manufacturing: Context, practice bundles, and performance. Journal of Operations Management. DOI ↗リーン生産の諸実践をいくつかの束(バンドル)に整理し、工場の規模や設備の古さなどの条件と、それらの実践の導入や業績との関係を実証的に検討した。
- Holweg, M. (2007). The genealogy of lean production. Journal of Operations Management. DOI ↗トヨタ生産方式が西洋に知られ、IMVP の研究を通じて「リーン生産」という概念として定式化されていった経緯を歴史的にたどった。
批判と境界条件
Williams et al. (1992) は、IMVP による工場の生産性比較の方法に疑問を呈し、日本の自動車メーカーの優位を生産方式の違いだけで説明し、それを普遍的な手本とみなす本書の結論は根拠が弱いと批判した。また、本書の根拠は自動車産業の比較研究であり、他の産業での有効性は本書のデータでは示されていない。
研究上の位置づけ
The machine that changed the world
出典
- 原典Womack, J. P., Jones, D. T., & Roos, D. (1990). The machine that changed the world. Rawson Associates.
- Williams, Haslam, Williams, Cutler, Adcroft, & Johal (1992). Against lean production. Economy and Society. ↗
本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。