理論・視点

心理的契約Psychological Contract

一言で言うと

働く人は、組織との間で「自分がこう貢献すれば、組織はこう報いる約束をした」という個人的な信念を抱く。この信念が裏切られたと感じると、単なる期待外れよりも強い反応が起こる、とする理論。

説明したい問い書面の契約には書かれていない「約束」を、働く人はどう理解し、それが破られたと感じたとき何が起こるのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

雇用契約書には、給料や勤務時間は書かれている。しかし「頑張れば昇進させてもらえる」「長く勤めれば雇用は守られる」といった理解の多くは、どこにも書かれていない。こうした書かれていない約束は誰のもので、破られたときどんな結果を生むのか。

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主張とメカニズム

Rousseau (1989) は、心理的契約を「ある個人と相手との間の、互いに義務を負う交換の取り決めについて、その個人が抱く信念」と定義した。心理的契約は、一方が「将来の見返りが約束された」と信じ、自分はすでに貢献したので、相手には見返りを与える義務が生じた、と考えるときに生まれる。

この定義で大事なのは、心理的契約が個人の主観だという点である。組織の側が同じ理解をしているとは限らない。組織は、採用担当者や上司などの代理人を通じて約束を伝えるにすぎず、個人はそれぞれの言動から契約の中身を読み取る。Rousseau は、関係の外にいる人々が共有する理解としての「暗黙の契約」とも、心理的契約を区別した。

心理的契約の違反は、単に期待が満たされないことよりも強い反応を生む。約束に基づいて貢献したのに報いられないと、怒りや裏切られたという感情が生じ、相手への信頼が損なわれる。関係そのものが揺らぐため、その後の貢献の意欲も下がる。

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身近な例

たとえば、ある社員が入社時の面接で「数年で海外勤務のチャンスがある」と聞き、そのつもりで努力を重ねてきたとしよう。会社が方針を変えて海外勤務の機会をなくせば、会社から見れば一つの経営判断にすぎない。しかし社員は「約束が破られた」と受け止め、給料が変わらなくても会社への信頼や意欲を失うかもしれない。

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主要概念

心理的契約(psychological contract)
個人と相手の間の、互いに義務を負う交換の取り決めについて、その個人が抱く信念。
暗黙の契約(implied contract)
関係の当事者の外にいる人々が、その関係についてともに抱いている義務の理解。
契約違反(violation)
相手が約束された義務を果たさなかったと、個人が受け止めること。
約束(promise)
将来の行動についての言明や示唆で、相手に信頼して貢献させるもの。
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代表的な展開研究

  • Robinson, S. L., & Rousseau, D. M. (1994). Violating the psychological contract: Not the exception but the norm. Journal of Organizational Behavior. DOI ↗新卒入社者を追跡し、心理的契約の違反は珍しいことではなく、信頼や満足、定着の低下と結びつくことを示した。
  • Morrison, E. W., & Robinson, S. L. (1997). When employees feel betrayed: A model of how psychological contract violation develops. Academy of Management Review. DOI ↗約束が守られなかったという認識(破棄)と、それに伴う強い感情(違反)を区別し、違反が生じる過程をモデル化した。
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批判と境界条件

Guest (1998) は、心理的契約の概念が、期待、義務、約束などを十分区別しないまま使われていると批判した。また、一方の当事者の主観的な信念にすぎないものを「契約」と呼ぶことや、組織を契約の相手方としてどう捉えるかにも問題があると論じた。

研究上の位置づけ

原典Rousseau, D. M. (1989)
Psychological and implied contracts in organizations
分類Concept / theory
分析単位個人 · 二者関係
理論系譜心理学
REFERENCES

出典

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