社会的交換理論Social Exchange Theory
一言で言うと人間関係を、相手から返ってくる見返りを期待して行う自発的な行為のやりとりとして捉える。見返りの内容や時期が決まっていないため、交換は信頼と恩義の感覚を生み、同時に権力の差も生む、とする理論。
中核的な問い
人は、給料や代金のように相手と条件を取り決めて取引するだけではない。手伝ったり、助言したり、便宜を図ったりもする。はっきりした約束がないのに、なぜ人はこうした行為を続け、関係は安定するのか。
主張とメカニズム
Blau (1964) は、社会的交換を「相手から返ってくると期待され、実際にもたいてい返ってくる見返りによって動機づけられた、個人の自発的な行為」と定義した。社会的交換は経済的交換と違い、何をいつ返すかが前もって決まっていない。お返しの中身は、受け取った側の判断に任される。
そのため、社会的交換には相手を信頼することが欠かせない。最初は小さなやりとりから始まり、相手がきちんと返してくれることが分かるにつれて、やりとりは大きくなり、信頼が深まる。また、社会的交換は、恩義や感謝、信頼といった個人的な気持ちを生む。経済的交換にはこうした働きは弱い。
一方で、交換は権力の差も生む。相手から受け取ったものに見合う形で返せない人は、相手に従うことで返すほかなくなる。こうして、一方的な依存から権力が生まれる。Blau は、二者のやりとりから出発し、集団や組織の構造までを交換の考え方で説明しようとした。
身近な例
たとえば、ある社員が忙しい同僚の資料づくりを手伝ったとしよう。そのとき「お返しに何をする」という取り決めはない。しかし同僚は恩義を感じ、後日、別の場面で手を貸す。こうしたやりとりが重なると、二人の間に信頼が育つ。反対に、いつも助けてもらうばかりで返せない人は、相手の意見に従いやすくなるかもしれない。
主要概念
- 社会的交換(social exchange)
- 見返りへの期待に動機づけられた自発的な行為のやりとり。返す中身と時期は前もって決まっていない。
- 経済的交換(economic exchange)
- 交換する中身と条件が前もって明確に取り決められたやりとり。
- 互恵性(reciprocity)
- 受けた恩恵に対してお返しをすること。社会的交換を支える原則。
- 一方的な依存(unilateral dependence)
- 受け取ったものを同じ形で返せないため、一方が他方に頼らざるをえない状態。権力の源になる。
代表的な展開研究
- Eisenberger, R., Huntington, R., Hutchison, S., & Sowa, D. (1986). Perceived organizational support. Journal of Applied Psychology. DOI ↗組織が自分の貢献を評価し、幸福を気にかけているという従業員の認識(知覚された組織的支援)を提示し、交換の考え方を従業員と組織の関係に当てはめた。
- Cropanzano, R., & Mitchell, M. S. (2005). Social exchange theory: An interdisciplinary review. Journal of Management. DOI ↗組織行動研究における社会的交換理論の使われ方を整理し、交換のルールや関係の種類をめぐる課題を示した。
批判と境界条件
Blau (1964) 自身、社会的交換の概念を、他者からの見返りに左右される行為に限っている。見返りを期待しない行為や、強制による行為は、この理論の範囲の外にある。また、Cropanzano & Mitchell (2005) は、組織研究でこの理論が広く使われる一方、互恵性以外の交換のルールがあまり検討されていないことなど、中心となる考え方があいまいなまま使われている点を指摘した。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Blau, P. M. (1964). Exchange and power in social life. Wiley.
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