Boundary Objects境界物(バウンダリー・オブジェクト)
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一言で言うと立場や専門の異なる集団が、完全な合意なしに協働できるのは、それぞれが自分なりに解釈しながらも共通に使える「モノ」があるからだ、とする考え方。
Institutional ecology, 'translations' and boundary objects: Amateurs and professionals in Berkeley's Museum of Vertebrate Zoology, 1907-39
中核的な問い
研究者、アマチュア、行政など、目的も言葉も異なる人々が一つの事業に関わることがある。全員が同じ理解に達するのは難しい。それでも協働が成り立つのはなぜか。
主張とメカニズム
Star & Griesemer (1989) は、大学の自然史博物館の設立と運営を分析した。そこでは科学者、収集を担うアマチュア、管理者などが、それぞれ異なる関心を持っていた。彼らをつないだのは、標本、記録用紙、地図、標準化された手順などのモノであった。
これらのモノは、各集団の事情に合わせて柔軟に読み替えられる一方で、集団をまたいで同じものだと分かるだけの共通の形を保っている。この二つの性質を併せ持つものを境界物と呼ぶ。境界物があれば、合意を先に済ませなくても、情報を受け渡し、作業を分担できる。
身近な例
新製品の開発で、設計者、営業、製造担当が試作品を囲んで議論する。設計者は構造を、営業は見た目と価格を、製造担当は組み立てやすさを見ている。見ているところは違っても、同じ試作品を指さしながら話すことで、互いの懸念を具体的に伝え合える。
主要概念
- 境界物(boundary object)
- 複数の集団の間で共有され、各集団が別々に解釈できる柔軟さと、共通のものと認識できる安定さを併せ持つモノや情報。
- 解釈の柔軟性(interpretive flexibility)
- 同じ対象が、集団によって異なる意味で理解されうること。
- 標準化された形式(standardized forms)
- 記録用紙や手順書など、離れた場所の作業を共通の形でそろえる仕組み。境界物の一類型とされる。
代表的な展開研究
- Carlile, P. R. (2002). A pragmatic view of knowledge and boundaries: Boundary objects in new product development. Organization Science. DOI ↗製品開発の現場で、境界物が部門間の知識の違いを伝え、調整するのに役立つ条件を論じた。
- Bechky, B. A. (2003). Sharing meaning across occupational communities: The transformation of understanding on a production floor. Organization Science. DOI ↗技術者、技能者、組立作業者の間で、図面や機械を介して理解がすり合わされる過程を観察した。
批判と境界条件
概念が広く使われるにつれ、ほとんどあらゆるモノが境界物と呼ばれるようになり、分析の鋭さが失われたとの指摘がある(Star 自身も後にこの点を論じている)。また、境界物は協働を助けるだけでなく、特定の集団の見方を押しつける道具にもなりうる。どのモノが、どの条件で境界を越える働きをするのかを事前に特定するのは難しい。
出典
- 原典Star, S. L., & Griesemer, J. R. (1989). Institutional ecology, 'translations' and boundary objects: Amateurs and professionals in Berkeley's Museum of Vertebrate Zoology, 1907-39. Social Studies of Science. DOI ↗
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