組織市民行動Organizational Citizenship Behavior
一言で言うと職務として決められてはいないが、同僚を助ける、組織の活動に進んで関わるといった自発的な行動が、積み重なることで組織の働きを支えている、とする理論。
中核的な問い
組織は、職務記述書や規則に書かれたことだけで動いているわけではない。困っている同僚を手伝う、不満があっても不平を言いふらさない、会議に出て意見を述べる。こうした、誰にも命じられていない協力がなければ、組織はうまく回らない。このような行動をどう捉え、何がそれを生むのか。
主張とメカニズム
Organ (1988) は、組織市民行動を「自由裁量による個人の行動であり、公式の報酬制度によって直接的・明示的には認められていないが、全体として組織の効果的な機能を促進するもの」と定義した。自由裁量とは、職務として求められておらず、しなくても罰せられないという意味である。一回ごとの行動は小さくても、多くの人の行動が積み重なることで組織の働きを支える点が重要とされる。
Organ は、この行動の中身として、特定の人を助ける愛他主義、求められる以上にきちんと勤める誠実さ、小さな不便に不平を言わないスポーツマンシップ、問題を未然に防ぐための配慮である礼儀、組織の運営に責任をもって関わる市民的美徳、の五つを挙げた。
また、職務満足と仕事の成果の関係は、決められた作業量よりも、この種の自発的な協力に表れやすいと論じた。人は組織から公正に扱われていると感じると、報酬に直接結びつかない形でもお返しをしようとする、という社会的交換の考え方がその背景にある。
身近な例
たとえば、ある事務所で、新人が慣れない作業に手間取っているとしよう。隣の席の先輩が、頼まれていないのに手順を教える。別の人は、プリンターの紙が切れそうなのに気づいて補充しておく。こうした行動は評価表の項目にはなく、給料にも直接は反映されない。しかし、これらがなくなれば、仕事の流れはすぐに滞るだろう。
主要概念
- 組織市民行動(organizational citizenship behavior, OCB)
- 自由裁量による個人の行動で、公式の報酬制度では直接認められていないが、全体として組織の機能を促進するもの。
- 自由裁量(discretionary)
- 職務として強制されておらず、するかしないかを本人が選べること。
- 愛他主義(altruism)
- 仕事上の課題や問題について、特定の他者を助ける行動。
- スポーツマンシップ(sportsmanship)
- 職場の小さな不便や不満を、苦情を言い立てずに受け入れる行動。
- 市民的美徳(civic virtue)
- 会議への参加など、組織の運営に責任をもって関わる行動。
代表的な展開研究
- Organ, D. W. (1997). Organizational citizenship behavior: It's construct clean-up time. Human Performance. DOI ↗Organ 自身が当初の定義を見直し、課題遂行を支える社会的・心理的な環境への貢献として定義し直した。
- Podsakoff, P. M., MacKenzie, S. B., Paine, J. B., & Bachrach, D. G. (2000). Organizational citizenship behaviors: A critical review of the theoretical and empirical literature and suggestions for future research. Journal of Management. DOI ↗組織市民行動の多様な次元、先行要因、結果についての研究を整理し、課題を示した。
批判と境界条件
Organ (1997) は自ら、「公式の報酬制度で認められていない」「職務として求められていない」という定義上の基準は維持しにくいと認め、定義を改めた。Morrison (1994) は、同じ行動を職務の一部とみなすか職務外とみなすかが従業員によって異なることを示し、役割内と役割外の境界があいまいであることを指摘した。Bolino (1999) は、組織市民行動が、組織への善意だけでなく、自分をよく見せようとする印象管理の動機からも生じうると論じた。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Organ, D. W. (1988). Organizational citizenship behavior: The good soldier syndrome. Lexington Books.
- Morrison (1994). Role definitions and organizational citizenship behavior: the importance of the employee's perspective. Academy of Management Journal. ↗
- Bolino (1999). Citizenship and Impression Management: Good Soldiers or Good Actors?. The Academy of Management Review. ↗
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