変革型リーダーシップTransformational Leadership
一言で言うとリーダーは、報酬と引き換えに働きを求める取引だけでなく、部下の意識や欲求そのものを高め、自分の利害を超えて集団のために、当初の期待以上の働きをするよう動機づけることができる、とする理論。
中核的な問い
多くのリーダーシップ論は、リーダーが目標を示し、達成すれば報酬を与えるという交換の関係に注目してきた。しかし、それだけでは、部下が見返りを超えて力を尽くす現象をうまく説明できない。リーダーは、部下を「期待どおり」ではなく「期待以上」の働きに導くことができるのか。それはどのようにしてなのか。
主張とメカニズム
Bass (1985) は、変革型リーダーを「部下を、当初期待していた以上のことをするよう動機づける」リーダーとして描いた。その方法として、目指す成果の重要性や価値への部下の意識を高めること、チームや組織のために自分の利害を超えさせること、マズローの欲求階層でより高い次元の欲求に目を向けさせることを挙げた。Bass は政治学者 J. M. Burns の「変革的(transforming)リーダーシップ」の考えを出発点に、これを組織の中のリーダーと部下の関係に当てはめ、質問紙で測れる形に整えた。
これと対比されるのが交換型(transactional)リーダーシップである。これは、成果に応じて報酬を与える「条件つきの報酬」と、問題が起きたときにだけ介入する「例外による管理」からなる。Burns が両者を一本の軸の両端と見たのに対し、Bass は両者を別々の次元とし、一人のリーダーが両方を示しうると考えた。そして、変革型のふるまいは交換型の効果に上乗せされて、期待以上の成果を生むと論じた。
原典で変革型リーダーシップの中心とされた要素は、カリスマ(部下がリーダーを信頼し、同一化し、理想として慕うこと)、個別配慮(部下一人ひとりの成長や欲求に目を配ること)、知的刺激(部下が問題を新しい見方で考えるよう促すこと)である。人々を鼓舞して方向づける働きも論じられたが、カリスマと密接に結びついたものとして扱われていた。今日よく知られる「四つのI」、すなわち理想化された影響、鼓舞的動機づけ、知的刺激、個別配慮という整理は、後の研究で示されたものである。「理想化された影響」はカリスマに代わる呼び名として導入された(Bass, 1999)。
身近な例
たとえば、ある部署の新しいリーダーが、赤字続きのサービスを立て直す役目を任されたとしよう。リーダーは、ノルマと賞与の話から始めるのではなく、このサービスが利用者にとってなぜ大切なのかを語り、自らも率先して現場に立つ。会議では「これまでのやり方を一度疑ってみよう」と問いかけ、若手の型破りな提案も真剣に検討する。また、メンバーごとに得意なことや伸ばしたい力を聞き、仕事の割り振りに生かす。この理論は、メンバーが評価のためだけでなく、サービスをよくしたいという思いから予定以上の工夫を重ねるようになる過程を、こうしたリーダーのふるまいで説明する。
主要概念
- 変革型リーダーシップ(transformational leadership)
- 部下の意識や欲求を高め、自分の利害を超えて集団のために、期待以上の働きをするよう動機づけるリーダーシップ。
- 交換型リーダーシップ(transactional leadership)
- 目標の達成と報酬を交換する関係にもとづくリーダーシップ。条件つきの報酬と例外による管理からなる。
- 例外による管理(management by exception)
- ふだんは任せておき、基準から外れた問題が起きたときにだけリーダーが介入するやり方。
- 知的刺激(intellectual stimulation)
- 部下が思い込みを疑い、問題を新しい見方で考えるよう促すこと。
- 個別配慮(individualized consideration)
- 部下を一人ひとり異なる存在として扱い、その成長や欲求に目を配ること。
代表的な展開研究
- Bass, B. M. (1999). Two decades of research and development in transformational leadership. European Journal of Work and Organizational Psychology. DOI ↗1985年以降の研究と測定尺度の改訂を振り返り、理想化された影響、鼓舞的動機づけ、知的刺激、個別配慮という後の整理を示した。
- Judge, T. A., & Piccolo, R. F. (2004). Transformational and transactional leadership: A meta-analytic test of their relative validity. Journal of Applied Psychology. DOI ↗メタ分析により、変革型リーダーシップと交換型リーダーシップの各要素が、部下の満足や動機づけ、成果とどう結びつくかを比べた。
批判と境界条件
Yukl (1999) は、変革型リーダーシップの理論には概念上の弱点があると論じた。たとえば、それぞれの要素がどのような影響の過程を通じて部下を動かすのかがはっきりしないこと、要素どうしが重なり合っていること、状況によって効果が変わる条件が十分に考えられていないことを挙げた。van Knippenberg & Sitkin (2013) はさらに踏み込み、この概念はリーダーのふるまいとその効果を混ぜて定義しており、何がリーダーシップで何がその結果なのかを区別できていないと批判した。そのうえで、この研究の流れは概念の定義から考え直すべきだとしている。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Bass, B. M. (1985). Leadership and performance beyond expectations. Free Press.
- Yukl (1999). An evaluation of conceptual weaknesses in transformational and charismatic leadership theories. The Leadership Quarterly. ↗
- van Knippenberg & Sitkin (2013). A critical assessment of charismatic—transformational leadership research: Back to the drawing board? Academy of Management Annals. ↗
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