理論・視点

コミットメントのエスカレーションEscalation of Commitment

一言で言うと

自分で選んだ行動方針が悪い結果を生んでいるとき、人はその選択を正当化しようとして、かえってその方針にさらに資源を投じてしまう、とする理論。

説明したい問いなぜ人や組織は、うまくいっていない計画から手を引かず、むしろ投資を増やしてしまうのか。

この理論で考えられる身近な疑問

01

中核的な問い

合理的に考えれば、悪い結果が出た計画は見直され、資源はもっと見込みのある用途に回されるはずである。ところが現実には、赤字の事業や遅れ続ける開発計画に、追加の資金や人が注ぎ込まれ続けることがある。人はなぜ、失敗しつつある方針に深入りしてしまうのか。

02

主張とメカニズム

Staw (1976) が扱ったのは、「自分で選んだ行動方針へのコミットメント(関与)が、否定的な結果を受けてかえって強まっていくこと」である。行動の結果から学ぶという見方に立てば、悪い結果は投資を減らすはずである。Staw は、これと逆のことが起こりうると考えた。

その説明の中心は自己正当化である。自分の決定が悪い結果を招いたと認めることは、自分の判断が誤っていたと認めることになる。人はそれを避けたいので、最初の決定は正しかったと示そうとして、同じ方針にさらに資源を投じる。これは、自分の行動と考えの食い違いを減らそうとする認知的不協和の考え方にもとづく説明である。

Staw は、経営学を学ぶ学生に企業の財務担当者の役を演じさせる実験で、この考えを確かめた。参加者は、研究開発の資金を二つの事業部のどちらに配分するかを決め、その後の業績を知らされたうえで、追加の資金を配分した。その結果、最初の配分を自分で決め、しかもその事業部の業績が悪かった参加者ほど、同じ事業部により多くの資金を回した。最初の決定を別の人が行ったことにした条件では、この傾向は弱かった。つまり、決定への個人的な責任が、失敗した方針への再投資を強めていた。

03

身近な例

たとえば、ある課長が、自分の強い推薦で新しい社内システムの導入を決めたとしよう。導入後、使い勝手が悪く、現場の作業はかえって遅くなった。それでも課長は「まだ慣れていないだけだ」と言い、追加の研修やカスタマイズに予算をつぎ込み続ける。一方、前任者が決めたシステムを引き継いだだけの別の課長は、同じ状況で早めに見直しを提案するかもしれない。この理論は、両者の違いを、最初の決定に対する個人的な責任の有無で説明する。

04

主要概念

コミットメントのエスカレーション(escalation of commitment)
否定的な結果が出ているにもかかわらず、選んだ行動方針への関与や資源の投入を強めていくこと。
自己正当化(self-justification)
自分の過去の決定が正しかったと、自分や他人に示そうとすること。
認知的不協和(cognitive dissonance)
自分の行動と考えが食い違うときに生じる不快な状態。人はそれを減らそうとする。
個人的責任(personal responsibility)
最初の決定を自分自身が行ったかどうか。原典の実験で中心的に操作された条件。
05

代表的な展開研究

  • Staw, B. M. (1981). The escalation of commitment to a course of action. Academy of Management Review. DOI ↗1976年の実験以降の研究を整理し、自己正当化だけでなく、一貫した態度をとるべきだという社会的な規範など、エスカレーションを生む複数の要因を論じた。
  • Sleesman, D. J., Conlon, D. E., McNamara, G., & Miles, J. E. (2012). Cleaning up the big muddy: A meta-analytic review of the determinants of escalation of commitment. Academy of Management Journal. DOI ↗多数の研究を統合するメタ分析により、プロジェクト、心理、社会、組織の各側面からエスカレーションの決定要因を検討した。
06

批判と境界条件

Whyte (1986) は、エスカレーションは自己正当化がなくても起こりうると論じた。プロスペクト理論に従えば、すでに損失を抱えた人は損失の領域で選択するため、危険を冒してでも損失を取り戻そうとしやすい。この説明では、最初の決定への個人的な責任がなくても再投資が起こる。原典の著者自身も、後の Staw (1981) で、自己正当化はエスカレーションを生む要因の一つにすぎないと位置づけ直している。

研究上の位置づけ

原典Staw, B. M. (1976)
Knee-deep in the big muddy: A study of escalating commitment to a chosen course of action
分類Theory
分析単位個人 · 組織
理論系譜心理学 · 行動論
REFERENCES

出典

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。