理論・視点

虐待的管理(アビューシブ・スーパービジョン)Abusive Supervision

一言で言うと

上司が、敵意のこもった言葉や態度(身体的な接触を除く)を部下に向け続けていると、部下が知覚する程度を指す概念。部下の職務満足や組織への情緒的なコミットメントの低下、精神的な消耗、仕事と家庭の葛藤、離職と結びつくことが示されてきた。

説明したい問い上司から敵意のこもった扱いを受け続けると、部下にはどんな影響が生じるのか。その影響は、どんな条件で強まるのか。

この理論で考えられる身近な疑問

01

中核的な問い

上司が部下に向ける敵意のこもった振る舞いは、組織の中でどれほど深刻な問題なのか。Tepper (2000) は、組織的公正の理論をもとに、この問いに実証的に取り組んだ。Tepper (2007) によれば、その後、研究者たちは似た現象をさまざまな名前で呼び、異なる方法で測ってきた。上司からの継続的な敵意は、部下の仕事や生活にどんな影響を与え、それはどんな条件で強まるのか。

02

主張とメカニズム

Tepper (2000) は、虐待的管理を「上司が、敵意のこもった言語的・非言語的な行動を継続的に示している程度についての、部下の知覚(身体的な接触を除く)」と定義した。Tepper (2007) は、例として、怒りの爆発、人前でのあざけり、部下の成果を自分の手柄にすること、部下に責任を押しつけることを挙げている。Tepper (2000) が作った15項目の尺度には、「私をばかにする」「私の考えや気持ちをばかげていると言う」「私を無視する」「人前で私をけなす」「私を無能だと言う」といった項目が並ぶ。

この定義には三つの特徴がある。第一に、部下の主観的な評価である。同じ行動でも、見る人や状況によって虐待と受け止められることも、そうでないこともある。第二に、継続するものである。Tepper (2007) によれば、機嫌の悪い日に部下に当たった上司は、それが決まった振る舞いにならない限り、虐待的な上司とはみなされない。第三に、相手を傷つける意図を問わない。部下から高い成果を引き出すために厳しく当たる場合も含まれ、この点で、加害の意図を定義に含む攻撃行動とは区別される。また、職場のいじめ(bullying)は上下関係に限らない点で、上司から部下への敵意に絞った虐待的管理とは区別される(Tepper, 2007)。

Tepper (2000) は、米国の中規模都市に住むフルタイムの従業員を電話で無作為に選び、6か月の間隔をあけて2回調査した。2回とも答えた362人の分析では、上司の虐待的管理を強く知覚している人ほど、その後、職務満足や生活への満足が低く、組織への情緒的なコミットメントが低く、仕事と家庭の葛藤、抑うつ、不安、情緒的な消耗感が高かった。辞めずにいる人と自分から辞めた人を比べた分析では、虐待的管理を強く知覚していた人ほど辞めていた。こうした影響の多くは、組織から公正に扱われていないという知覚(結果の配分、手続き、上司からの扱いについての公正さ)を通じて生じていた。また、職務満足や抑うつなど一部の影響は、他の職に移れる見込みが低いと感じている人ほど強かった。

140の標本(38,527人)をまとめた Mackey et al. (2017) のメタ分析では、虐待的管理の知覚は、職務満足(ρ = −.34)、組織への情緒的なコミットメント(ρ = −.26)、業績(ρ = −.19)の低さと、情緒的な消耗感(ρ = .36)、仕事から家庭への葛藤(ρ = .35)、上司に向けた逸脱行動(ρ = .53)の高さと関連していた。一方、年齢や性別などの属性との関連はどれも弱く、著者らは、幅広い人が虐待的管理を知覚していると述べた。

虐待的管理はなぜ起こるのか。Tepper (2007) の時点では、原因を調べた研究は三つしかなかった。それらは、上司自身が組織から不公正な扱いを受けたり、組織との約束が破られたと感じたりしたとき、その不満が部下に向かうことを示しており、Tepper はこれを上から下への連鎖(トリクルダウン)のモデルとして特徴づけられるとした。ただし、研究が三つしかない段階で、組織に主な責任があると結論するのは早すぎるとも述べている。敵意のある振る舞いを許す組織の規範も、虐待的管理を助長しうるとしている。

03

身近な例

新しく着任した課長が、定例会議のたびに、ある部下の資料を人前で取り上げて「こんなものしか作れないのか」と言うようになった。質問をしても返事がなく、うまくいった企画は課長の成果として報告される。この部下は会議で発言しなくなり、家に帰っても仕事のことが頭から離れず、疲れが取れなくなった。転職も考えたが、今の年齢と地域では次の仕事が見つかりそうにないと感じ、動けずにいる。

一度きりの叱責ではなく、継続的な敵意のこもった扱いが満足の低さや消耗感と結びつき、移れる先がないと感じる人ほど一部の影響が強く現れる、という研究の知見に重なる例である。

04

主要概念

虐待的管理(abusive supervision)
上司が、敵意のこもった言語的・非言語的な行動を継続的に示している程度についての、部下の知覚。身体的な接触は含まない。
継続性
一度きりの出来事ではなく、関係が終わるか上司が行動を改めるまで続く、という虐待的管理の特徴。
移動可能性の知覚(perceived job mobility)
他の職に移れる見込みについての本人の認識。低い人ほど、虐待的管理の影響の一部(職務満足や抑うつなど)が強く現れた。
トリクルダウン(上から下への連鎖)
上司自身が組織から受けた不公正な扱いなどが、上司から部下への敵意として下に流れていく、という見方。
05

代表的な展開研究

  • Tepper, B. J. (2007). Abusive supervision in work organizations: Review, synthesis, and research agenda. Journal of Management. DOI ↗それまでの研究を整理し、虐待的管理を、職場のいじめや攻撃行動など近い概念と区別した。原因、結果、それを強めたり弱めたりする条件を整理し、研究の課題を示した。
  • Mackey, J. D., Frieder, R. E., Brees, J. R., & Martinko, M. J. (2017). Abusive supervision: A meta-analysis and empirical review. Journal of Management. DOI ↗140の標本(38,527人)をメタ分析し、虐待的管理の知覚が、職務満足やコミットメントの低さ、情緒的な消耗感、逸脱行動の多さなどと関連することを示した。
06

批判と境界条件

虐待的管理は部下の知覚として測られる。Tepper (2007) によれば、研究の多くは一時点の調査や同じ回答者によるデータに頼っている。Mackey et al. (2017) も、データの大半が横断的であるため因果関係は主張できないとし、虐待的管理が業績の低さを招くのか、業績の低さが虐待的管理を招くのかは明らかでない。著者らは、苦情の記録や同僚の報告など、別の情報源で確かめる必要があるとしている。

Tepper (2007) は、ほかの研究分野の知見を引き、これまで結果として扱われてきた部下の態度や苦痛、逸脱行動が、逆に虐待的管理を招いている可能性もあるとして、時間を追った研究を求めた。ただし、これは因果の向きについての問いであり、部下の特徴と虐待的管理の知覚との関連は、Mackey et al. (2017) でも関連として報告されているにとどまる。

また、Tepper (2000) の尺度は、その後ほとんど心理測定上の検討を受けていない(Tepper, 2007)。文化による違いも十分に調べられていない。Mackey et al. (2017) の分析では、平均得点は米国より中国、フィリピン、台湾で高かったが、著者らは尺度の形式や文化が結果に影響したと注意している。日本の標本は含まれていなかった。

研究上の位置づけ

原典Tepper, B. J. (2000)
Consequences of abusive supervision
分類Concept / theory
分析単位二者関係 · 個人
理論系譜心理学 · 行動論
REFERENCES

出典

  • 原典Tepper, B. J. (2000). Consequences of abusive supervision. Academy of Management Journal. DOI ↗

本ページは学習用の要約です。正確な引用や議論には原典を確認してください。