理論・視点

仕事と家庭の葛藤(ワーク・ファミリー・コンフリクト)Work–Family Conflict

一言で言うと

仕事の役割と家庭の役割から来る圧力が互いに両立せず、一方の役割を果たすことで、もう一方の役割を果たすのが難しくなる、という役割間の葛藤。時間、緊張、行動の三つの形があり、仕事が家庭を妨げる向きと、家庭が仕事を妨げる向きがある。

説明したい問い仕事と家庭の両方の役割を担う人は、どんなときに、どんな形で板挟みになるのか。

この理論で考えられる身近な疑問

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中核的な問い

Greenhaus & Beutell (1985) は、仕事と家庭の役割の間で生じる葛藤について、それまでの研究を整理した。どんな条件のもとで、仕事と家庭の役割は両立しなくなるのか。著者らは、葛藤を生む原因に焦点を当て、その結果については扱いの外に置いた。

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主張とメカニズム

Greenhaus & Beutell (1985) は、仕事と家庭の葛藤を「仕事と家庭の領域から来る役割の圧力が、何らかの点で互いに両立しない、役割間葛藤の一つの形」と定義した。つまり、家庭(仕事)の役割に参加することで、仕事(家庭)の役割に参加するのが難しくなる、という状態である。役割間葛藤とは、異なる役割への参加から、互いに相反する圧力が生じることを指す。

著者らは、葛藤に三つの形を区別した。時間に基づく葛藤は、一方の役割に時間を使うと、もう一方の役割の要求を満たすのが難しくなることである。原因として、仕事では労働時間、融通のきかない勤務時間、交代勤務が、家庭では幼い子どもがいることや配偶者の就業などが挙げられた。緊張に基づく葛藤は、一方の役割で生じた緊張が、もう一方の役割の遂行に影響することである。仕事での役割の葛藤や曖昧さ、家庭内の対立や配偶者の支えの乏しさが原因になる。行動に基づく葛藤は、一方の役割で求められる振る舞い(たとえば仕事での秘密保持や客観性)が、もう一方の役割で期待される振る舞い(家庭での温かさや率直さ)と合わないことである。

仕事や家庭が本人にとって重要な役割であるほど、また役割の要求に応えないことへの制裁が強いほど、役割の圧力は強まり、葛藤も強くなる。著者らは、フレックスタイムがあればすべての人の葛藤が減るとは限らず、子育ての主な責任を担う人にとっては、わずかな柔軟性では足りなかった可能性があるとも述べている。また、この定義は葛藤の向きを定めていないが、研究では仕事が家庭を妨げる向きだけを暗に想定しがちだと指摘し、両方の向きを測るよう勧めた。

67本の研究を整理した Allen et al. (2000) は、仕事が家庭を妨げる葛藤が、職務満足の低さ、離職の意図、生活満足の低さ、抑うつ、燃え尽きと関連することを示した(重み付き平均相関はそれぞれ −.24、.29、−.28、.32、.42)。98本の論文をまとめた Amstad et al. (2011) のメタ分析では、仕事が家庭を妨げる葛藤は仕事に関わる結果と、家庭が仕事を妨げる葛藤は家庭に関わる結果と、より強く関連していた。著者らは、制度として家族に配慮した方針を設けるだけでは効果は保証されず、従業員がそれを家族に配慮した職場の雰囲気として受け止めることが必要だと述べている。

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身近な例

共働きで小学生の子どもが二人いる人がいるとしよう。夕方の会議が延びるたびに、学童保育の迎えに間に合わなくなる(時間に基づく葛藤)。取引先とのトラブルが続いた週は、家に帰っても気持ちが休まらず、子どもの話を上の空で聞いてしまう(緊張に基づく葛藤)。職場では冷静に要点だけを話すよう求められるが、その口調のまま家族と話して、きついと言われることもある(行動に基づく葛藤)。

同じ「両立できない」でも、葛藤の形が時間なのか、緊張なのか、振る舞いなのかで、手の打ち方は変わってくる。

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主要概念

役割間葛藤(interrole conflict)
異なる役割に参加することから、互いに相反する圧力が生じる状態。
時間に基づく葛藤(time-based conflict)
一方の役割に時間を使うことで、もう一方の役割の要求を満たすのが難しくなること。
緊張に基づく葛藤(strain-based conflict)
一方の役割で生じた緊張が、もう一方の役割の遂行を妨げること。
行動に基づく葛藤(behavior-based conflict)
一方の役割で求められる振る舞いが、もう一方の役割で期待される振る舞いと合わないこと。
仕事から家庭への葛藤・家庭から仕事への葛藤
葛藤の向き。仕事が家庭の役割を妨げる場合と、家庭が仕事の役割を妨げる場合がある。
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代表的な展開研究

  • Allen, T. D., Herst, D. E. L., Bruck, C. S., & Sutton, M. (2000). Consequences associated with work-to-family conflict: A review and agenda for future research. Journal of Occupational Health Psychology. DOI ↗67本の研究を整理し、仕事が家庭を妨げる葛藤が、仕事への態度、生活への満足、ストレスに関わる状態とどう関連するかを示した。
  • Amstad, F. T., Meier, L. L., Fasel, U., Elfering, A., & Semmer, N. K. (2011). A meta-analysis of work–family conflict and various outcomes with a special emphasis on cross-domain versus matching-domain relations. Journal of Occupational Health Psychology. DOI ↗98本の論文をメタ分析し、葛藤は、それが生じた側の領域の結果とより強く関連することを示した。
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批判と境界条件

Greenhaus & Beutell (1985) は、この分野の研究が1〜2項目の簡単な尺度に頼っていることの心理測定上の限界を指摘し、行動に基づく葛藤についてはほとんど実証研究がないと述べた。その後の研究でも、多くの尺度は時間と緊張に基づく葛藤だけを測っていた(Allen et al., 2000)。

Allen et al. (2000) によれば、研究の多くは横断的な自己報告に基づき、因果関係は確かめられていない。標本は既婚者や中流以上の層に偏り、民族による違いの研究はほとんどない。Amstad et al. (2011) の分析でも、427の相関のうち355は横断的研究によるもので、ほとんどが米国の研究だった。また、子どもの有無はケアの責任を測るには粗い指標であり、子どもの数や年齢、ひとり親かどうかは分析できなかったと述べている。

研究上の位置づけ

原典Greenhaus, J. H., & Beutell, N. J. (1985)
Sources of conflict between work and family roles
分類Concept / theory
地図の区画組織行動
分析単位個人
理論系譜心理学 · 社会学
REFERENCES

出典

  • 原典Greenhaus, J. H., & Beutell, N. J. (1985). Sources of conflict between work and family roles. Academy of Management Review. DOI ↗

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