バーンアウト(燃え尽き)Burnout
一言で言うと仕事上の慢性的な対人ストレスへの反応として生じる心理的な症候群。心身のエネルギーを使い果たした情緒的な消耗感、仕事や相手から距離を置く冷淡な態度、自分は役に立っていないという効力感の低下、の三つの側面からなる。
この理論で考えられる身近な疑問
中核的な問い
Maslach & Jackson (1981) は、人を相手にする仕事では、他者の問題に関わり続けることが心理的に大きな負担になり、燃え尽きの危険があると指摘した。燃え尽きは、人を相手にする仕事をする人によく生じるとされていたが、それまでの研究はまだ探索的な段階にあった。燃え尽きとはどのような状態で、どう測ればよいのか。
主張とメカニズム
Maslach & Jackson (1981) は、燃え尽きを「何らかの形で人を相手にする仕事をする人によく生じる、情緒的な消耗感とシニシズムの症候群」と捉え、それを測る尺度(マスラック・バーンアウト・インベントリー、MBI)を作った。さまざまな対人援助職の計1,025人のデータから、三つの側面が見いだされた。仕事で情緒的に力を使い果たしたと感じる情緒的消耗感、自分がケアやサービスを提供する相手に対して、感情のこもらない、人を人として扱わない反応をする脱人格化、人と関わる仕事で有能さや達成を感じる個人的達成感(燃え尽きでは低くなる)である。個人的達成感は、ほかの二つの単なる裏返しではなかった。
Maslach, Schaufeli & Leiter (2001) は、燃え尽きを「仕事上の慢性的な対人ストレスへの反応として生じる心理的な症候群」と定義し直し、対人援助以外の仕事にも広げた。三つの側面は、消耗感、仕事から距離を置く冷淡な態度であるシニシズム、そして効力感の低下と呼ばれる。消耗感は燃え尽きの中心にあるが、それだけでは燃え尽きとはいえない。消耗感とシニシズムは仕事の過重な負担や対人的な対立から、効力感の低下は必要な資源の不足から生じやすいとされる。
Maslach et al. (2001) は、燃え尽きは、人と仕事の環境との慢性的なずれから生じると考えた。ずれが生じうる領域として、仕事量、裁量、報酬、職場の共同体、公正さ、価値観の六つを挙げている。たとえば仕事量は消耗感と、裁量や報酬の不足は効力感の低下と、不公正はシニシズムと結びつきやすい。個人の特徴よりも仕事の状況との関連のほうが強く、著者らは燃え尽きを「個人の現象というより社会的な現象」と述べた。
61本の研究をまとめた Lee & Ashforth (1996) のメタ分析では、情緒的消耗感は、仕事量(rc = .65)や役割の葛藤(rc = .53)と強く関連し、上司の支援(rc = −.37)とは負の関連があった。仕事の要求度と資源は、どちらも、脱人格化や個人的達成感より情緒的消耗感とより強く関連していた。情緒的消耗感は、離職の意図(rc = .44)とも関連していた。Maslach et al. (2001) は、燃え尽きが欠勤、離職の意図、実際の離職、生産性の低下と結びつき、消耗感はストレスに関連する健康状態をよく予測すると整理している。
燃え尽きの反対の状態として、Maslach et al. (2001) はエンゲイジメントを挙げた。エネルギー、関与、効力感に特徴づけられる状態で、燃え尽きの三つの側面のちょうど反対にあたる。燃え尽きへの対策は個人向けのものが多かったが、それらは消耗感を和らげることはあっても、シニシズムや効力感の低下はほとんど変えなかった。著者らは、環境と個人の両方を変えることが必要だと述べている。
身近な例
小学校の担任を5年続けている教員がいるとしよう。授業の準備、保護者への対応、行事の運営が重なり、週末も仕事が頭から離れない。最近は、朝起きた時点で疲れ切っている(消耗感)。以前は一人ひとりの子どもの話を聞いていたのに、今は「どうせ言っても変わらない」と距離を置くようになった(シニシズム)。自分がこの仕事で何かを成し遂げているという感覚も薄れてきた(効力感の低下)。
本人の気力の問題に見えても、仕事量の多さや裁量の少なさなど、仕事の環境とのずれが積み重なって生じている、というのが燃え尽き研究の見方である。
主要概念
- バーンアウト(burnout)
- 仕事上の慢性的な対人ストレスへの反応として生じる心理的な症候群。消耗感、シニシズム、効力感の低下の三つの側面からなる。
- 情緒的消耗感(emotional exhaustion)
- 仕事によって情緒的に力を使い果たし、消耗しきったという感覚。燃え尽きの中心的な側面。
- 脱人格化・シニシズム(depersonalization / cynicism)
- サービスの相手や仕事そのものに対して、冷淡で距離を置いた態度をとること。
- 効力感の低下(reduced efficacy)
- 仕事で有能さや達成、生産性を感じられなくなること。原典では「個人的達成感」の低さとして測られた。
- 仕事生活の六つの領域(six areas of worklife)
- 仕事量、裁量、報酬、職場の共同体、公正さ、価値観。ここで人と環境のずれが慢性化すると燃え尽きが生じる、とされる。
代表的な展開研究
- Maslach, C., Schaufeli, W. B., & Leiter, M. P. (2001). Job burnout. Annual Review of Psychology. DOI ↗燃え尽き研究を総覧し、対人援助職以外にも概念を広げた。燃え尽きを人と仕事の環境とのずれから説明する六つの領域の枠組みと、その反対の状態としてのエンゲイジメントを示した。
- Lee, R. T., & Ashforth, B. E. (1996). A meta-analytic examination of the correlates of the three dimensions of job burnout. Journal of Applied Psychology. DOI ↗61本の研究をメタ分析し、仕事の要求度と資源が、ほかの二つの側面より情緒的消耗感と強く関連することを示した。資源保存理論の観点からこの結果を解釈した。
批判と境界条件
Maslach et al. (2001) によれば、MBI はもともと対人援助職のために作られた尺度である。また、燃え尽きの結果についての知見の多くは自己報告に基づき、因果関係を推論できる設計の研究は少ない。時間を追った研究も乏しく、国ごとの比較も無作為に選ばれた標本によるものではない。対策の研究も、適切な対照群を設けにくいなど、設計上の制約が大きい。
Lee & Ashforth (1996) は、情緒的消耗感と仕事の要求度の強い関連の一部は、両者を測る質問項目の内容が重なっているための測定上の見かけである可能性を認めている。分析した研究の約8割は対人援助職の標本で、それ以外の職業にどこまで当てはまるかは今後の課題とした。Maslach & Jackson (1981) も、性別による得点の違いは職業の違いと重なっているため、慎重に解釈すべきだと述べている。
研究上の位置づけ
出典
- 原典Maslach, C., & Jackson, S. E. (1981). The measurement of experienced burnout. Journal of Occupational Behaviour. DOI ↗
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